西部戦線の英軍重砲
ベルギーの村の被害
廃墟を活用した通信壕
上 西部戦線の英軍重砲
中 ベルギーの村の被害
下 廃墟を活用した通信壕
(『欧州大戦写真帖』より)
 

カイゼン視点から見る

第一次世界大戦


A Review on World War I from Kaizen Aspect

第一次世界大戦の参考図書・資料

日本海軍の戦い
連合国への協力

航行中の英艦隊
英軍の戦車
米軍の毒ガス対策
上 航行中の英艦隊
中 英軍の戦車
下 米軍の毒ガス対策
(『欧州大戦写真帳』より)
 
サイトトップ 主題と構成大戦が開戦に至った経緯
第一次大戦の経過
第一次大戦の総括日本が戦った第一次大戦日本が学ばなかった教訓
参考図書・資料映像・写真資料 文学作品 欧州大戦の 参考図書・資料日本の大戦の 参考図書・資料第一次大戦期の 政治・経済 加藤高明と 対華21ヵ条要求 第一次大戦期の 朝鮮・満州・中国日本の戦い概説 青島攻略戦日本海軍の戦い 連合国協力シベリア出兵 大戦後の陸海軍 @ 陸海軍史大戦後の陸海軍 A 陸軍各論大戦後の陸海軍 B 海軍各論大戦後の陸海軍 C 水野広徳 1大戦後の陸海軍 D 水野広徳 2

カイゼン視点から見る日清戦争


第一次世界大戦での日本海軍の戦い・連合国への協力

日本が戦った第一次世界大戦についての参考図書・資料のうち、海軍の戦い、および連合国への協力に関するものについてです。


平間洋一 『第一次世界大戦と日本海軍 − 外交と軍事との連接』
慶應義塾大学出版会 1998

著者は、防衛大学卒後、海上自衛官、護衛艦の艦長、護衛隊司令官などを歴任ののち、防衛大学教授となられた、という経歴の方です。

第一次世界大戦中には日本海軍の活躍が国策を推進し外交を支援した、という事実がある中で、本書は、日本海軍が実施した作戦の概要と、日本海軍がどのような意図からどのように国策決定に関わり、海軍の動向がその後の日本の国内政治や、日本をめぐる国際関係にいかなる影響を与えたか、という視点から分析を試みたものです(本書「序章」)。

日本の参戦決定の過程での海軍の考え方、南洋諸島占領作戦の概要と、その作戦実行にあたっての外交関係への顧慮、太平洋・インド洋での連合国への協力作戦、太平洋でのアメリカとの協力関係、青島攻略戦での日本海軍の協力、地中海への駆逐艦隊派遣とその作戦内容、日本陸海軍による連合国軍への武器援助の内容、海軍による第一次世界大戦研究と大戦後の日本海軍の変質、といった事項が分析・記述されています。その際、軍事史料だけでなく、外交史料も踏まえて、総合的な記述がされています。

類書はほぼ存在しないように思います。第一次世界大戦期〜大戦後の日本海軍を理解するためのみならず、大戦中の日本陸海軍の連合国への協力状況を具体的に知るためにも、読む価値の非常に高い1書であると思います。

本ウェブサイトでは、「日本が戦った第一次世界大戦 E 南洋諸島の占領」「同 F 連合国への協力 −地中海など」、および「日本が学ばなかった大戦の教訓 B 艦隊決戦より海上封鎖」の各ページで、要約引用を行っています。


片岡覚太郎 『日本海軍地中海遠征記
− 若き海軍主計中尉の見た第一次世界大戦』 河出書房新社 2001

第一次世界大戦中、日本海軍の駆逐艦隊は地中海護送任務を行いましたが、本書はその任務に参加した片岡主計中尉(当時、のち海軍中将)による『遠征記』です。原著は、日本海軍第二特務艦隊整理部 編纂 『遠征記』(非売品 1919)の後半部分、ということです。

著者は、地中海での護送任務のために第二特務艦隊が編制された1917年2月に、駆逐艦「松」乗艦を命じられて地中海に向けて出港し、1918年7月に交替の命を受けて、艦隊を離れ帰国の途に就きます。

著者は、この駆逐艦「松」で、17年4月の護送任務開始後1ヵ月も経たないうちに、イタリア沖で護送中の英船に潜水艦からの魚雷が命中、さらにその英船の人員を救出中の「松」を魚雷がかすめる、という事態を経験します。また、その1ヵ月後にはクレタ島近くで、「松」と活動を共にしていた僚艦の「榊」が魚雷攻撃を受け艦長以下59名が戦死する、という事態も経験します。潜水艦の脅威と対潜水艦作戦の困難さを、身を以って体験した重要記録、といえます。

他方、著者はじめ艦隊メンバーは、イギリスやフランスなど連合国士官同士の交流も行っているほか、寄港地ではできるだけ時間を見つけてその土地の見物を心がけ、結果として現地の人との多くの接触も行っています。日本海軍の「国際性」がよく表れているところと言えそうです。こういうエピソードを読みますと、日本陸軍も当時ヨーロッパに派兵していたなら、もう少し国際的に物事を考えられるようになって、昭和前期の悲劇は避けられたのではなかろうか、と感じてしまいます。

著者は、文才があり、また豊かなユーモアの持ち主だと思います。本書は、粛々と作戦遂行状況を記録した戦記ではありません。そうした戦記には通常記述されない、艦隊生活を幅広く記録した『遠征記』です。また、寄港地での見聞・経験は、第一次世界大戦下のヨーロッパの銃後の生活の記録にもなっています。

本ウェブサイトでは、本書からの引用等は行っていませんが、読む価値が大いにある1書、と言えるように思います。


紀脩一郎 『日本海軍地中海遠征記
− 第一次世界大戦の隠れた戦史』 原書房 1979

上掲の片岡主計中尉の著書と、全く同じ書名です。しかし、片岡中尉の著書は、実際に駆逐艦に乗艦した士官による「体験記」である一方、本書は、第一次世界大戦の海戦史研究家による、第二特務艦隊全体についての「戦記読物」であり、内容は全く異なっています。

地中海での日本海軍駆逐艦隊の活動の詳細について、片岡中尉の著書からも相当引用されていますが、それ以外の艦についての記述が大きな分量を占めていて、全体像が理解できます。

加えて、休戦後の、日本海軍に配分をされたUボートを、同艦隊がイギリスからマルタまで回航(マルタ島以降はそのために日本から派遣された特務艦が回航)したときの苦労や、佐藤司令官以下艦隊幹部による連合国各国への親善訪問についても、詳述されています。

巻末には、艦隊兵力一覧表、寄港地一覧表、戦闘地点一覧表などのデータも付されています。地中海への駆逐艦隊派遣に関する全体像を知る上では、読む価値のある1冊です。

本ウェブサイトでは、「日本が戦った第一次世界大戦 F 連合国への協力 −地中海など」のページで、引用を行っています。


荒木映子 『ナイチンゲールの末裔たち
−<看護>から読みなおす第一次世界大戦』 岩波書店 2014

本書の第6章の基になっているのが、著者による論文、「欧州に派遣された『女の軍人さん』− 日赤救護班と第一次世界大戦」(『人文研究』大阪市立大学大学院文学研究科紀要 2013年)です。第一次世界大戦時の連合国への協力として、日本陸軍が日赤の医師・看護師からなる救護団を欧州に派遣した記録が記述されています。論文を本書に取り込むに際しては、フランスに派遣された看護師が書いた手記の内容も書き加えられているようです。

本書のこの部分は、一般にはほとんど知られていなかった、日本赤十字による欧州での病院開設、医師・看護師の派遣という事実を、読みやすい文章で提供している点で、価値が高いと思います。

本ウェブサイトの「日本が戦った第一次世界大戦 F 連合国への協力 −地中海など」のページでも、本書のこの部分から引用を行っています。

ただし、本書の全体としては、第一次世界大戦を「看護師の手記や回想録から浮かび上がらせようとする試み」(本書の「結語」)です。より具体的には、第一次世界大戦時の、英米の中流以上の階層出身の「篤志看護師」経験者が書いた文学作品を通して見る、女性史・ジェンダー論、というのが、内容の最も適切な要約であるかと思います。

研究対象である女性たちが活躍した時代背景として、クリミア戦争でのナイチンゲールの活躍以来の従軍看護史や、第一次世界大戦の特に医療関係の実情についても触れられています。

「ジェンダー論」が主題の書ですので、「第一次世界大戦史」という観点から本書を読むと、少し欲求不満を感じてしまうかもしれません。

敢えて申し上げれば、例えばフランスの日赤病院が受け入れた患者数やその負傷状況、治療結果についてのデータなど、病院の実機能に関する事実も追及されていたなら、第一次世界大戦史の書としても、もっと面白くなっていたのではなかろうか、という気がいたします。


次は、日本が戦った第一次世界大戦のうち、シベリア出兵に関するものについてです。


ページのトップに戻る

戻る前のページに 次のページに進む