西部戦線の英軍重砲
ベルギーの村の被害
廃墟を活用した通信壕
上 西部戦線の英軍重砲
中 ベルギーの村の被害
下 廃墟を活用した通信壕
(『欧州大戦写真帖』より)
 

カイゼン視点から見る

第一次世界大戦


A Review on World War I from Kaizen Aspect

第一次世界大戦の参考図書・資料

日本の戦い概説
青島攻略戦

航行中の英艦隊
英軍の戦車
米軍の毒ガス対策
上 航行中の英艦隊
中 英軍の戦車
下 米軍の毒ガス対策
(『欧州大戦写真帳』より)
 
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カイゼン視点から見る日清戦争


第一次世界大戦での日本の戦いの概説・青島攻略戦

日本が戦った第一次世界大戦についての参考図書・資料のうち、概説書、および青島攻略戦に関するものについてです。


小林啓治
『総力戦とデモクラシー − 第一次世界大戦とシベリア干渉戦争』
吉川弘文館 2008

小林啓治 総力戦とデモクラシー 表紙

『戦争の日本史』シリーズの21巻です。このシリーズは、戦史に焦点を当てた記述となっているのが通常です。しかし本書に限っては、戦史に関する記述よりも、それ以外の主題に関する記述の方が、量がはるかに多くなっています。

全体で300ページほどですが、このうち日本の参戦外交と、青島攻略戦など日本が戦った第一次世界大戦に関する記述の量は約40ページ、日本での欧州大戦の報道状況に関する記述が約60ページ、日本のシベリア出兵は実質わずか10ページほどで、合計しても全体の3分の1強でしかありません。

ヨーロッパでの状況の記述にある程度ページ数が必要なのは当然ですが、とくにロマン・ロランの反戦論、および反戦思想の日本での受容などにかなりのページ数が割かれています。

ですから、『戦争の日本史シリーズ』の1冊であるから、とか、第一次世界大戦での日本の戦いの詳細を知りたいから、という理由で本書を読むと、期待をかなり裏切られます。

ただし、青島攻略戦や南洋諸島の占領などについての事実を記述した本がほとんど存在していない状況では、この程度の記述量でも役に立つと言えるように思います。また、欧州大戦についての日本での報道状況の記述は、確かに参考になります。

第一次世界大戦で日本は大して戦っていないことは事実ですが、青島攻略戦だけは、日本陸軍が世界の趨勢に引けを取らない優れた戦い方をした戦争であったといえるだけに、もう少し戦史自体の追求にページ数を割いていただきたかった、という気がしています。

また、反戦思想を取り上げるのであれば、ロマン・ロランではなく、水野広徳を取り上げてほしかった、という気がしています。日本海軍の軍人であったこと、第一次世界大戦で出現した軍事情勢や教訓を的確に考察した結果として、戦争をすれば日本が必ず敗けるので、戦争はしてはならないという結論に達した経緯であったことなど、『戦争の日本史』シリーズでは、ロマン・ロランよりはるかにふさわしい記述対象になったのではないでしょうか。

本ウェブサイトでは、本書からは、「日本が戦った第一次世界大戦 B 日本の参戦決定の経緯」、および「同 C 青島攻略戦の戦闘の経過」のページで、要約引用を行っています。


山室信一
『複合戦争と総力戦の断層 − 日本にとっての第一次世界大戦』
人文書院 2011

山室信一 複合戦争と総力戦の断層 表紙

日本人には第一次世界大戦についての意識が希薄であるため、日本にとっての第一次世界大戦とは何であったのかを明らかにすることが本書の課題、とされています。

内容としては、参戦外交、青島攻略戦・南洋諸島占領、海軍の地中海駆逐艦隊派遣、対華21ヵ条要求などから、シベリア出兵まで扱われています。

戦史中心の記述ではありませんが、「日本にとっての第一次世界大戦」という書名の副題にふさわしい範囲が対象となっている概説書と言えます。

本ウェブサイトでは、本書からの引用は何も行っていませんが、「日本にとっての第一次世界大戦」を理解できる入門書の一つ、といえるように思われます。

ただし、『複合戦争と総力戦の断層』という本書の書名で、著者は何を示そうとしているのか、著者の本書での本質的な狙いについては、読者がそれを理解するのはなかなか困難、と言わざるを得ないような気がします。

本書の書名のわかりにくさの一つ目は、「複合戦争」という聞きなれない言葉にあります。著者は、日本にとっての第一次世界大戦を、「対独戦争、シベリア戦争という戦火を交えた二つの戦争と、日英間、日中間、日米間の三つの外交戦からなる複合戦争」と捉え直す、としています。

対独戦争・シベリア戦争は明解ですが、著者の言う「外交戦」には分かり難さがあります。著者は、「本書で扱う外交戦は敵国との間ではなく、同盟国・友軍国ないし中立国との間での外交的闘争であった」としています。この場合は敵国間とは異なり、戦争入りを招く事態になることはなく、一般の外交交渉とはどう異なるのかが不明確です。

一般の外交交渉と大差のない状態をあえて「外交戦」と呼び、実際の戦闘行為が行われた対独戦争・シベリア戦争と同列に並べて、「戦争」という言葉で総称する、というのは、妥当なアプローチとは思われない、という感を強く持ちました。

おそらくは、筆者側に著者の意図を誤解している部分があるのだろうと思います。しかし著者は、筆者のような誤解を避けるためにも、「複合戦争」という言葉の定義、および、この言葉を積極的に使用する意味を、もっと詳細に論じていただくのが良かったのではないかと思います。

ただし、本書の本文の末尾で、著者が「日本にとっての第一次世界大戦とは外交上稀に見る失敗の連続の歴史に他ならなかった」と述べられている点は、著者の見解に大いに同意いたします。

二つ目は、書名中のもう一つのキーワードである「総力戦」についてです。これに関連して著者は、「第一次世界大戦の世界史的重要性については、戦争形態が『総力戦』へと転換していったことに求められてきたが、日本ではそれをいかに意識して対応し、それは日本社会をどのように変容させていくことになったのか」という設問を提起しています。

しかしながら、第一次世界大戦を一言で総括するのに、「総力戦」という言葉はとても適切とは思われないことは、「日本が学ばなかった教訓 @ 戦争するより非戦争で工業化」のページに述べました。実際、「総力戦」は「工業化」が進展していることが前提条件として必須であるのに、本書でも、当時の日本の工業化水準や、先進工業国との量的・質的な格差の状況、といった記述が十分とはいえないように思われます。

不適切なキーワードの選択の結果として、本書では、経済強国相手に戦争をするなど全く非現実的であったのにかかわらず、工業力の伴わないうわべだけの「総力戦」を構想した日本陸軍の発想上の無理を、一般の読者に十分には感じてもらえていないことを危惧します。

上記の設問中の「総力戦」を、より適切なキーワードである「工業化された戦争」に置き換えるなら、当時の日本での工業化促進の重要性の認識が抜け落ちてしまう心配はなくなると思いますが。


小野圭司 「第1次大戦・シベリア出兵の戦費と大正期の軍事支出
− 国際比較とマクロ経済の視点からの考察」
(防衛省防衛研究所 『戦史研究年報』 第17号 2014)

著者は、銀行員から防衛省防衛研究所に加わったという経歴の経済の専門家で、同研究所の理論研究部社会・経済研究室長です(防衛研究所ウェブサイトの「研究者紹介」による)。本論文は、インターネット公開されています。

本論文では、まず、第一次世界大戦前後の日本と列強7か国との経済力と軍事費の国際比較を行い、日本は8か国中で、成長率は高くてもGNPは最小であったこと、第一次世界大戦の前後を比較すると、軍事支出の増加は日本と米国が突出していること、欧米列強に比べて日本の軍事支出は、海軍費の比率が高い点が特徴的であること、などが指摘されています。

次に、第一次大戦およびシベリア出兵の戦費総額について、まず第一次世界大戦の主要参戦国の戦費と比べれば極めて少額であったことが指摘されています。日露戦争と比較すると、陸軍所管分は動員兵力と経戦期間の積に大体のところ一致していること、他方、海軍所管分については、作戦の大部分が地中海を含む遠方海域で大部隊によって行われたため、燃料費が増加し、日露戦争を上回っていることが指摘されています。また、第一次世界大戦分とシベリア出兵分は、臨時軍事費特別会計の支出年度によって区分することで、総額8億8166万円のうちの8割近くがシベリア出兵に支出されたことが指摘されています。戦費の具体的な中身については、詳細に検討されています。

大正期全体の日本の軍事費の趨勢については、この時期には第一次大戦・シベリア出兵があったのにもかかわらず、軍事支出の流れを決定したのは、海軍所管の一般会計歳出、すなわち八八艦隊の建艦費であったことを指摘しています。本論文は、その末尾を、「経済成長著しいとは言え当時の日本が、GNPで10倍近い経済規模を誇る米国相手に建艦競争を挑むには、やはり無理があったと言えよう」という言葉で締めくくっています。

読む価値が高いと思います。

本ウェブサイトでは、「日本が戦った第一次世界大戦 C 青島攻略戦の戦闘の経過」「同 I シベリア出兵 (3)」、および「日本が学ばなかった大戦の教訓 B 艦隊決戦より海上封鎖」の各ページで、本論文からの要約引用等を行っています。


斎藤聖二 『日独青島戦争 (秘 大正三年日独戦史 別巻2)』
ゆまに書房 2001

青島攻略戦については、当時の参謀本部が、公式戦記として『秘 大正三年日独戦史』 (東京偕行社 1916、国立国会図書館デジタルコレクションでインターネット公開)を制作しています。

これを2001年にゆまに書房が復刻する際に、別巻として出版されたのが本書であり、第一次世界大戦勃発時の日本の開戦外交と、青島攻略戦の戦史に関する、詳細な研究書です。

本ウェブサイトでは、「日本が戦った第一次世界大戦 B 日本の参戦決定の経緯」、および「同 C 青島攻略戦の戦闘の経過」のページで、本書からは、多くの要約引用を行っています。

本書は、青島攻略戦を理解するためには必読書であり、第一次世界大戦当時の日本陸軍の実力を理解するためにも、非常に価値の高い1書であると思います。

ただし、上記のような出版形態であるため、本書を購入しようとすれば1冊1万円を超える高価格である一方、図書館で読もうとしても通常の公立図書館には蔵書されておらず、非常に読むのが難しい本である、という現実があります。本書を蔵書している大学図書館は、ごく少数ですがありますので、そういう大学図書館を探していただくのが一番現実的かと思います。

また、上掲の小林啓治 『総力戦とデモクラシー』では、青島戦については本書から引用している箇所も多く、お近くに本書を蔵書している大学図書館がない場合には、『総力戦とデモクラシー』で間に合わせていただく、ということにならざるを得ないかもしれません。


参謀本部編 『大正三年 日独戦史写真帖』 東京偕行社 1916

上掲の参謀本部による公式戦記とともに出版されたもので、やはり国立国会図書館デジタルコレクションでインターネット公開されています。

やはり、ただ戦史だけを読むのと、写真も眺めるのとでは、理解の度合いが大違いになりますから、非常に参考になります。

本ウェブサイト中の、「日本が戦った第一次世界大戦 C 青島攻略戦の戦闘の経過」のページに載せた写真は、本書から引用したものです。


『日本の戦史 1 日清・日露戦争』 毎日新聞社 1979

日本の戦史 1 日清・日露戦争 表紙の写真

毎日新聞社が出版した「1億人の昭和史」シリーズは、いわば近現代史分野の歴史写真誌です。歴史ある新聞社ならではで、同社保有の写真がきわめて多数掲載されている点が、大きな特徴です。

このシリーズ中に、『日本の戦史』全10巻・別冊5巻もあります。その第1巻が本書であり、明治大正期の日本の戦争、すなわち、日清戦争から北清(義和団)事変、日露戦争、および第一次世界大戦までが、陸戦・海戦とも扱われています。

「1億人の昭和史」シリーズの1冊であり『日清・日露戦争』という書名の本書に、実は大正期の第一次世界大戦も含まれている、というのは、なかなか気づきにくいのですが、この書名表記は、第一次世界大戦に対する日本の一般的な関心の低さの表れでしょうか。

全体で270ページ強の本書中、5分の1弱である50ページほどが、第一次大戦関係に充てられており、そこそこの分量があると言えます。内容的にも、青島攻略戦・南洋群島の占領・地中海への駆逐艦隊派遣・シベリア出兵(尼港事件を含む)の全てがカバーされています。

上掲の参謀本部の写真帖にはない写真が、多数掲載されており、本書も一見以上の価値が十分にあるように思われます。本書は、古書で容易に買えます。

本ウェブサイト中、「日本が戦った第一次世界大戦 C 青島攻略戦の戦闘の経過」および「同 I シベリア出兵 (3)」のページで、本書から写真を引用しました。



次は、第一次世界大戦での日本の戦いに関するもののうち、海軍の戦いや連合国への協力を主題としているものについてです。


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