第一次世界大戦の影響・結末
ここでは、第一次世界大戦によって生じた影響や、ベルサイユ講和、かかった戦費などについて論じているものを、挙げています。
1916年から1917年にかけての冬、ドイツは「カブラの冬」と呼ばれる飢饉状態に陥りました。本書は、「この飢饉の内実を紹介し、さらにこの歴史的意義を考察すること」を目的としています(本書「はじめに」)。
本書は、まず第一次世界大戦中のドイツでの餓死者数(「70万人から80万人のあいだ」)を明らかにした後、それが「イギリスの経済封鎖とドイツの政策失敗という二つの要素」によって発生したことを明らかにしています。
具体的には、全食料の3分の1を輸入していたという開戦直前のドイツ食糧生産および輸入の詳細や、戦中の農業生産高などの数字も確認しながら、とりわけドイツ政府の政策が農業生産にどのような影響を与えたか、飢饉が生じた過程を記述しています。
さらに本書は、敗戦後の「食料と肥料を確保さえしていれば勝てたかもしれない」という悔悟が、ナチズムの誕生と成長に影響を及ぼした過程についても、記述しています。
最後に著者は、国内需要の60%を海外からの輸入に頼っていたイギリスは、ドイツによる無制限潜水艦攻撃によって、食料輸入量が戦前の3分の1に落ち込むという危機に直面、フランスは開戦直後、国内食料品生産量が開戦前の40%にまで激減しますが、「ドイツが海上封鎖できなかったこと」が、「大戦とその後史において決定的」であったことを指摘しています(本書「おわりに」)。
第一次世界大戦での銃後の状況の一面を知るうえで、あるいは、戦時における経済運営の重要性を理解する上で、読む価値が非常に高い1冊であると思います。
なお、著者は、このドイツの戦中の飢饉経験は、第一次世界大戦後の日本でも関心が払われたことを指摘(本書「はじめに」)していますが、当時の日本で、この問題に多少の関心を持った人はいても、陸軍による総力戦研究の中で、日本のカイゼン策に結び付くほどは積極的に研究されなかった点は、残念なことであったと思います。
本ウェブサイトでは、本書からは、「第一次世界大戦の経過 − 1916年C 講和への動きとカブラの冬」のページで、要約引用を行っています。
「第一次大戦の戦争責任をドイツに求める連合国側の主張に反対するドイツ政府の講和政策にウェーバーが協力する経緯、ウェーバーの主張を明らかにすることを通して、ドイツという『敗戦国』の立場から第一次大戦とヴェルサイユの講和の意味を考えてみることにしたい」(本書「序章」)というのが、本書の目的です。
しかし、ウェーバーに焦点を当てた記述は本書の一部のみで、アメリカ大統領ウィルソンの14ヵ条講和綱領の提示から、ヴェルサイユ条約の調印に至るまでの事実の経過に関する記述が、本書の大部分を占めています。
第一次世界大戦に関する本の多くは、1918年11月の休戦に至るまでの経緯については詳しくても、休戦からヴェルサイユ条約の調印に至るプロセスについての記述は割合に簡略なものが多い、という気がしています。
その点で、本書は、講和条約に至る事実経過に詳しく、他書の不足を補ってくれます。読む価値のある一書であると思います。
本ウェブサイトでは、本書からは、「第一次世界大戦の経過 − 1918年A 休戦」のページで、要約引用を行っています。
1100ページを超える大著です。書名が表しているように、フランスの外交資料に基づく、第一次世界大戦後から第二次世界大戦後までの欧州の外交史が、本書の主題です。
@ ヴェルサイユ体制下(1919〜32年)、A 戦間期(1932〜39年3月)、B 第二次大戦前夜(1939年3〜9月)、C 第二次大戦の前半(1939年9月〜42年4月)、D
第二次大戦の後半(1942年4月〜46年1月)、という5つの期間に分けて、記述されています。
本ウェブサイトでは、本書を、ドイツの賠償金支払い問題に関する事実関係を知る目的のみで活用しましたので、最初の期間だけを見ています。
第一次世界大戦後のドイツの賠償金額の決定〜支払い〜その後の減額等に至る過程について、適切な本が見つからなかった折に、本書に行き当たった次第です。
ドイツの賠償金問題について、本書が最適の研究書であるかどうかは、浅学にして分かりませんが、筆者の目的には役立ちました。
本ウェブサイトでは、本書からは、「第一次世界大戦の総括 C 各国が得たもの・失ったもの」のページで、要約引用を行っています。
第一次世界大戦の戦費あるいは経済的側面に関する資料を探したさいに出会った論文の一つに、河合正修 「第一次大戦期におけるイギリスの戦費調達と戦費支出
− 大英帝国の衰退と関連して」(『長野大学紀要』 第3巻 第1・2号、1981)があります。
この河合論文は、イギリスのみが対象で交戦国間の比較はしておらず、筆者の目的には合わなかったので、本ウェブサイトでは使っておりませんが、ここに掲げたフィスクの著書は、この河合論文からその存在を教えられたものです。本書は、インターネット上で公開されています。
本書の「序言」の冒頭には、「本書は、大戦の戦費、その戦費の調達、とりわけ、今後長年にわたり国際的な重要性を持つことになる連合国間の負債についての情報を多く要請されたために準備された」と書かれています。この文章が本書の目的を表しています。
本書は、まず最初に各国の戦費額の分析、次にその戦費調達方法の分析、その中で国内・海外の市中からの借入状況、さらに連合国間の借款の状況、1923年の各国の負債状況、そして各国の国民所得の状況、という内容になっています。また、各国の戦費調達の結果として発生した激しいインフレについても記述されています。この種の本としては当然のことながら、数表が多用されています。
著者名は、フィスクの個人名ですが、著作権者は ニューヨークのBankers Trust Company と明記されており、同社の当時の国際金融業務上の必要性から研究された資料が出版されたもの、と思われます。
第一次世界大戦の戦費を知るためには、あるいは、当時の主要国の経済状況を知るためには、非常に重要な資料であるように思います。
本ウェブサイトでは、本書からは、「第一次世界大戦の総括 @ 主要国の戦費」、および「日本が戦った第一次世界大戦 @ 第一次世界大戦時の日本の経済」のページで、データや内容の要約引用等を行っています。
第一次世界大戦の戦費あるいは経済的側面に関する資料として、本ウェブサイトで使用したもう一つの資料が、このブロードベリー&ハリソン論文です。この資料は、インターネット検索で出会ったものであり、やはりインターネット上で公開されています。
著者の二人は、イギリスのワーウィック大学の経済史の教授です。第一次世界大戦の主要交戦国について、経済的要因の役割の分析が、本論文の目的です。
戦費とその調達に関する当時の資料として、本論文は、Ernest L. Bogart, Direct and Indirect Costs of the Great World War, 1920 <訳せば、アーネスト・L・ボガート 『第一次世界大戦の直接・間接の費用』>を使用しています。このボガートの著書も、インターネットで公開されています。
ただし、ボガートの著書は、戦費分析だけにとどまっており、国民所得の大きさとの対比は含まれていなかったため、本ウェブサイトでは、上掲のフィスクの著書の数字を使用しました。
本論文の内容は、下記のようになっています。
- なぜ連合国は勝利したか
〔長期戦では経済的優位性が結果を決定〕
- 動員
〔より富裕な国は、一兵士あたりの武器もその経済能力に比例して動員、
貧しい国は、動員に対する貧農農業のネガティブな影響で食糧欠乏〕
- 戦争の経済に対する影響
〔戦争は一人当たりの収入の成長率を低下させた〕
- 経済成長に対する影響
〔中立国は交戦国より高い成長率〕
戦争と経済との関係は、もっと高い関心がもたれても良い重要な課題であるように思います。本論文は、戦争と経済との関係を論じた基本的な論文として、高い価値があると思います。
本ウェブサイトでは、本論文からは、「第一次世界大戦の総括 @ 主要国の戦費」、および「日本が戦った第一次世界大戦 @ 第一次世界大戦時の日本の経済」のページで、要約引用等を行っています。
次は、「日本が戦った第一次世界大戦」に関する参考図書・資料についてです。
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